もう一度、似顔絵を

似顔絵とウェルカムボード【にがおえ市場】

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似顔絵にまつわる数々のエピソード。一枚の似顔絵が出来上がるまでには十人十色の物語があります。

もう一度、似顔絵を

数年前、まだ学生だった頃に、忘れられない恋をした。

人には言えない恋だった。

「必ずまた会いに来るから、どうか待っていてほしい」なんて、彼の言葉を
バカみたいに一途にずっとずっと信じていたけれど、いつしか周りは結婚ラッシュ。

そんな中、3つ年上の上司から突然、結婚前提のお付き合いをと告白されて。

彼を忘れたわけじゃない、でもーー。

とにもかくにも、もう一度会わなくちゃ。

住所なんて知らないし、電話はとっくにつながらない。

考えに考えてふと思い出した、ある日の出来事。

私はすぐに走り出した。

きっと何十年も前から商売をしているであろう似顔絵かきのおじさんは
今も変わらずそこにいた。

「おじさん!聞きたいことがあるの!」

彼がいなくなる少し前、私たちはこの人に絵を描いてもらったことがある。

彼は恥ずかしがって、下書きが終わるや否や「後で取りに来るので」と
おじさんに名刺を渡して、完成を待たずに逃げてしまった。

ずっと後になって私がおじさんを訪ねると、その絵は彼が持って行った後だった。

「あのときのこと、覚えていませんか。名刺、まだありますか」

そして奇跡が起きた。

数日後、私は彼の家にいた。

「もう少しだけ早ければねぇ」初めて会った彼のお母さんは、目元がそっくりで。

彼は半年前に病気で亡くなっていた。

あの日の似顔絵を彼はずっと大切に持っていて、だから亡くなったときに
棺に入れてしまったのだという。

「これはあなたに。そして、もう来ないでおくれ」渡されたのは
彼の遺影に使われた写真。

病に侵されてからの、私の知らない彼がそこにいた。

でも、私が大好きだった、優しいまなざしはそのままだった。

「もう少し右を向いて。そう」今、再びおじさんに似顔絵を描いてもらっている。

私と、半年前の彼を。

私は結局、あの時完成した絵を見ることがなかったから。

今回の絵が完成したら、そしたらーーーー

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